*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語

「…………あ」






汀と灯の声が重なった。




艶めく黒髪の一房が、風に弄ばれて桜の枝に絡まってしまったのだ。






汀は立ち上がり枝に手を伸ばしたが、背伸びをしてやっとのことで届くくらいで、絡まった髪を解くことは難しそうだ。






(…………世話の焼ける奴だな、本当に)





灯は溜め息をついて立ち上がった。




汀の傍らに立ち、その髪を解いてやろうとした、その時。







「ーーーーーあっ!」







灯は鋭い声を上げた。





汀の手が胸もとに伸びてきて、護身用に持っていた懐刀を抜き取ったからだ。







「お、おい………っ!?


な、何をするんだ、お前!」







灯は慌てて小刀を奪い返そうとしたが、汀はくるりと身を翻して背中を向けた。