*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語

裏山の麓、竹藪の前に立つ大きな桜の木は、何十年も昔からそこに立っていた老木である。






まっすぐに裏庭へ入った灯は、その梢を見上げて呟く。






「…………まだまだ蕾だな」






しかし、答えはなかった。




灯が訝し気に視線を落とすと。





桜の木ではなく、灯のほうをじっと見上げている真っ青な瞳。








「…………おい。



桜を見に来たんじゃないのか」







「………………」








灯が呆れたように言ったが、汀はやはり答えない。







「…………おい、汀?



どうかしたのか?」







眉根を寄せて肩に手を乗せてくる灯に、汀が小さく訊ねる。






「…………なんで。



なんで、うちの裏庭の場所を知っているの?」