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話し疲れたように再び横になった母の身体に夜着をかけ直してやり、汀は静かに灯を見上げる。
「………行きましょうか」
母を起こさないように小さく囁くと、灯は黙って立ち上がった。
足音を忍ばせて母屋を出て、廂から簀子へ下りる。
充分に母の部屋から離れると、汀が口を開いた。
「…………お母さま、私が分からなかったわね」
「…………あぁ」
灯はちらりと汀を見下ろす。
しかし灯の心配をよそに、その薄花色の瞳は、まったく曇っても翳ってもいなかった。
「………でもね。
それでよかったの。
お母さまは悲しみも苦しみも忘れて、汚れのない少女のように生きておいでになるのだから」



