*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語

「………美しいものに惹かれ、魅入られるのは、そんなに悪いことでしょうか」






自分の胸の内を確かめるように。



自分に言い聞かせるように。





汀はゆっくりとした口調で、はっきりと言葉を紡いだ。






「私は、そうは思いません。



美しいものに魅入られ、魂を奪われるのは………。


怖ろしいことでも、忌むべきことでもなくて。



心を奪われてもいいと思えるほどに好きなものに出会えるというのはーーーとても幸せなことなのではないでしょうか」







汀が決然と言うと、母はにっこりと笑った。







「………そうかも、しれないわねぇ。


心を奪われるほどのものに出会えるのは、幸せなことーーー」








三人は、それ以上言葉を交わすこともなく、それぞれに思いを巡らせた。








穏やかな時間が流れるのを、月が静かに見守っていた。