*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語

汀は瞼を上げ、ゆっくりと母の方へ顔を向けた。








「…………本当に、月は、怖いものなのでしょうか」







「…………え?」








母は軽く目を瞠り、頬に手を当てた。






汀は微笑んで母を見つめる。







「………確かに、月は美しくて。


あまりに美しくて。



ひとたび見惚れると、心を奪われてしまって、容易には目を離せなくなる………」







母は汀を見つめながらこくりと頷いた。







「ーーーーーでも。


私、思うんです。



心を奪われて、なにがいけないのでしょうか。


魂を奪われて、月のことしか考えられなくなって、なにがいけないのでしょうか」






「……………まぁ」







汀はちらりと灯に目を向ける。






真っ直ぐに向けられる瞳を、灯もじっと見つめ返した。





薄闇の中に浮かぶ瞳は、月明かりを受けて浅葱色に透き通っている。






灯は言葉もなく、ただただその美しい色に魅入られていた。