*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語

「………ね。


昔からね、人々は、美しい月を怖れていたのよ。




その美しさで、人の魂を奪って、心を空っぽにしてしまうんだ、って………」







母の声を聞きながら、汀も月に目を向ける。







朔月に近づいた細く明るい月は、灯の髪の向こうに見えた。







煌めく月影が、柔らかく波打つ髪を、真朱に燃え上がらせている。





琥珀色の瞳も月光を受けて輝きながら、汀を真っ直ぐに見つめていた。







(ーーーあぁ、きれい………)







汀は魅入られたように、灯と月を眺める。






そっと目を閉じると。




初めて灯と出会ったときの光景が、瞼裏に鮮やかに甦った。








銀の粉を散らしたような、数多の星が煌めく瑠璃色の夜空。





そこにぽっかりと浮かぶ、鬱金色の大きな望月。






それを背に立つ、美しい人影。






紅緋に輝く、篝火のような髪。









(………あぁ。


あれを見たときに、もう、私は心を奪われていたのかもしれない)