*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語

「ひとり、月な見給ひそよ。


心、空になれば、いと苦し」







母は詠うような声音で、夢見るように穏やかに微笑む。







「………これはね。


光源氏の物語に出てくる、匂宮(におうのみや)の言葉よ。




匂宮は、中の君っていう姫君と恋仲になったんだけど………。



他の姫を娶ることになったの。




それを知って嘆き悲しむ中の君に、匂宮がこう言うの。





『ーーーまた、すぐに逢いに来ます。


一人きりで月をご覧になってはいけませんよ。



心を奪われて、空っぽになってしまってはいけませんからね』





………ねぇ、素敵な言葉ね。




匂宮の情熱と優しさが、よぅく分かるわね………」