*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語

その呟きを耳にして、春宮は腕の中の汀を見下ろす。






青い視線を追って、何気なく庭の方へと目を向けた。








…………しかしそこには、いつもと違うものは何もなかった。







「………妻よ、一体どうしたのだ?


何か見えたのか?」






春宮が首を捻りながら訊ねるので、汀はぶんぶんと首を振る。






「いえっ、なんでもございません!!


風に揺れる木の枝が、なんだか気味の悪いもののように見えまして………」






適当な言い訳が口から飛び出したが、春宮はあっけなく信じた。







「木の枝を恐れていたのか!!


なんと可愛らしいことよ………




愛しき妻よ、安心なさい。


私がついているからな………」







嬉しそうに顔を近づけてくる春宮の肩を全力で押して遠ざけ、汀は心の中で叫んだ。







(蘇芳丸ーーー!!



早く助けに来てーーーっ!!)