*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語

灯が検非違使に捕らえられ、自らは無理やり右大臣邸に引き戻された、絶望的ともいえるこの状況下で。





(…………なんという呑気な言葉だ)






春風に波打つ藤花を空想するようにうっとりとした表情を浮かべている汀を、藤波は呆気にとられて見つめた。







(………素っ頓狂なじゃじゃ馬だと、灯が言っていたけど。


どうやら、本当らしいなーーー)








藤波が溜め息をついていると。





寝殿の方から、恰幅のいい男がやってくるのが見えた。






藤波は目立たないように身を屈める。





「…………父上」





汀が小さく呟いた。