母屋の正面に立って頭を下げたのは。




母の家で汀が暮らしていた頃から使用されている、下働きの少女だった。






「まぁ、千瀬!! 千瀬ね!!


久しぶりねぇ、一体どうしたの!?」






汀は驚きに目を丸くしたあと、今度は懐かしさに目許を綻ばせた。




千瀬は控え目な微笑みを見せながら、するすると汀のいる廂に向かってきた。






「…………汀さま。


突然の不躾な訪問、お許しくださいませ。



わたしの勝手な判断なのですがーーーどうしてもお伝えしたいことが、ございましたので………」






「あら、伝えたいこと?」






汀はまたもや目を瞠り、小首を傾げた。