*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語








白縫山から都への道を、樹々を飛び移りながら急ぐ。




常人の足ならば一刻半以上、馬に乗っても半刻はかかる道のりだが、灯にかかれば四半刻もあれば充分だった。





町外れにぽつぽつと建つ家々が見えはじめ、人々の生活の音が聞こえてくると、灯は頭巾を被って赤い髪を隠した。






井戸の周りに集まっている、噂話の好きそうな女たちに灯は目をつけた。





「ーーーちょっと訊いてもいいか」





気配もなく背後に立った、背の高い若衆の姿に、女たちが一斉に目を瞠る。





「………だれだい、あんた」



「見ない顔だねぇ」



「あら、でも、ずいぶんな色男だよ」




女たちはきゃははと笑った。