「………あの、春宮さま。


本当に、申し訳ございません。



今すぐ人を呼んで、お怪我の手当てをさせ申し上げます。



この青丹丸はまだ子犬で、躾もできておりません………どうかお許しをーーー」







そう言って露草を呼びに行こうとした汀を、春宮が慌てた様子で呼び止めた。






「あっ、よい、よいのだ。


手当ては内裏に戻ってから、専属の薬師にさせるから。



まだ婚儀も済ませていない女御の実家に夜這いをして、しかも飼い犬に噛まれたなどということが公になれば、たいへんな醜聞だからな」







「………まぁ、そうでございますか。



申し訳ございません………」








その間も、微かに唸り声を上げながら春宮を睨みつけている青丹丸を恐れるように、春宮はそそくさと母屋から去って行った。