*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語

京の人々の夜は早い。



日が沈んだころにはもう寝支度を始めるのだ。





春先の戌の刻ともなると、ほとんどの邸は防犯のための篝火と衛兵たちの他には、明かりも人影もなかった。






それでも用心するにこしたことはない。




彼らは物陰から物陰へと、いつ現れるとも知れない人目を避けるように、夜闇の中を移動していった。







「角にあるあの大きな邸が、左近の大将殿のお邸です」





下調べをしてある黒松が、小声で囁きながら群雲に指し示した。




群雲が軽く頷き、後ろを振り返る。






「………灯。先に入れるか」





「あぁ、いいよ」





「もし万が一、まだ大勢が起きているようなら、戻ってこい。出直そう」





「俺が衛兵たちを引きつければいいか」





「ああ、頼んだ。一番足の速い白梅を連絡役につける」





短い会話を終えると、灯は素早く大将邸へと走り出した。




白梅も俊敏な動作でその後を追う。