状況をちゃんと理解した時、段々と顔が熱くなっていった。


「少しの間だけだから」


「いい!いいから降ろして!!」


必死に抵抗しても、がっちり抱きしめられているせいか体がビクとも動かない。


「ちょっ、マジで静かにしろって。落ちるぞ?」


あまりに真剣な声で言うから、私は動きを止めた。


「少しだけ、我慢してな」


私が大人しくすると、彼の声も穏やかになった。


そして私を抱きかかえたまま、一歩ずつゆっくり歩き出した。


麗斗が濡れないように、飛ばされそうになる傘を私は必死に持っていた。


お互い何も話そうとしない。


『まだ家に行くなんて言ってない』


そう言うタイミングが分からなくて、何度もその言葉を飲み込む。


どうしよう…。本当にこのまま連れていかれちゃうのかな…?


不安で一杯の私を他所に彼は着々と歩みを進めている。


結局私はタイミングを掴めないまま、何も言えないでいた。