困惑して立ち尽くす宏樹さん。


その宏樹さんの背中に、ヤモリのように貼り付く奈乃。


「こっ…この子がいきなり背中に貼り付いてきて、訳が分からないことを…」

「理想的な大胸筋と上腕三頭筋…はぁぁぁぁぁぁぁ…しゅてき…」



うわ言のようにそんな事を言いながら、奈乃は宏樹さんの背中と二の腕を撫で回している。


充さん達は私の事をよく痴女って言うけど、奈乃の方が立派な痴女だと思うんだけど。いくら私でも、ここまで撫で撫でハァハァしませんよ。



「……なぁ。何あれ」



赤間君は茫然としてこの光景を眺めている。うん、流石に奈乃の奇行を見慣れている私だってこれにはドン引きだ。


こんなの、引っ張がせばいいのか他人の振りすればいいのか分からないし。


「あっ、紗凪ぁ!見て見てこの理想的な筋肉の付き方!うっっとりするよねぇーっ!!」


それは奈乃だけだ、ボケ。


「……何コイツ。お前の知り合い?」

「紗凪の知り合いか!? ちょっ、助け…!」


赤間君は訝しげな、宏樹さんは助けを求めるような視線をそれぞれ同時に私に送ってきた。あーあ、しょうがないなぁ。