「あ~あ、これ絶対不味いでしょ。水と粉の比率おかしいし。イワシ先輩に怒られますよ」


田尾くんはキーパーの中を覗き込んで、涼しい顔してまだ嫌みを言う。


「先輩は別に怒ったりしないよ!! てか、あたしの名前は美海!! ミニじゃない!! そして岩石先輩でしょ!!」


あたしはムキになって田尾くんに向かって叫ぶ。


だけど田尾くんはあたしの叫びなんて全く気にせず、表情を変えずにキーパーのフタを閉めた。


「先輩に向かって酷いよね。確かにあたしチビだけど一応先輩なんだか……」


「ありがとうございました」


……え?


あたしが濡れた制服をタオルで拭きながら口を尖らせて言っていると、急に田尾くんの言葉が重なって、制服を拭く手を止めた。


「日高先輩とのこと。感謝してます」


……田尾くん。


田尾くんは、キーパーに視線を落としたままで、あたしからは横顔しか見えない。