「ちょっとした事件って、何だと思います?」


あたしの声が、キュッキュッとなるシューズの音に重なる。


「さぁ、何だろうな……。でも、今思えば、確かにすごい中学生がいるって噂で聞いたことあったんだよな」


先輩があたしを見て肩をすくめる。


「それが田尾のことだったとは……」


そう言って、ストレッチを再開させる先輩。


「アイツの中で、相当デカイ事件なんだろうな。バスケを完全に遠ざける程だから」


「……そうですよね」


一体、何だろう……。


「先生の話を聞く限り、アイツを説得するのは難しそうだな」


あたしは先輩に小さく微笑む。


説得は難しい……。


そうかもしれない……。


何があったのか知らないけど、もし彼の心に傷がついてしまっているのなら、あたしが簡単に声をかけられることじゃない。


失敗して余計傷をつけられたら困るし……。