バスケはルールすら知らない……?
嘘だ……。
なぜか、そう、思った。
「ボール取ってー!!」
ふと耳に入って来た言葉に、あたしは停止していた思考をサッと戻す。
コロコロと足元に転がって来たボールを、長身の田尾くんが腰を折ってヒョイッと拾い上げた。
「悪い悪い。ってか、来てくれたんだ」
ボールを追いかけてきたユニフォーム姿の岩石先輩が、田尾くんに爽やかな笑顔を向ける。
バスケの白いユニフォームを着ている時の先輩は、普段より少し大人に見えるんだ。
話し方も制服の時よりユニフォームの時の方が落ちついた感じになる。
何故だかわからないけれど。
「いや、もう帰りますよ。別に来たくて来たわけじゃないんで」
田尾くんは先輩にボールを渡すと、首を亀のように前に出して軽く会釈した。
「今来たばかりだろ?そんな数分じゃ、何もわからないと思うけど?」
先輩がボールを脇に抱えて、口元に笑みを浮かべる。
「中に入って、もっと見学していったら?」
先輩は頭で体育館の中をクイッと差すと、肩をすくめて眉を上げた。