クスッと笑うように、そう言われて。
「……わかってるわよ…っ」
私は苛立ちを噛み殺すように、そう言っ
た。
それから、くるっと振り向いて、仁斗を
睨んだ。
「でも、それでも、逃げたいのよ」
無駄な足掻きだとしたって。
それでも逃げたい。関わりたくない。恋
人だとか、姫だとか、そんな甘い関係。
もう二度と、要らない。甘いのは、要ら
ない。
ふ、と仁斗から目を逸らして、そのまま
屋上から出ていく。
仁斗のあの瞳、嫌いだ。
それに、太陽に透けると、すごく神秘的
に思える、あの髪の毛も。
琥珀色も、金色も。
───『麗、好きだ』
彼を、思い出すから。