玄関を開けると、当たり前なのだけど、
やっぱりそこには雅が居た。



家の塀にもたれ掛かり、ポケットに両手
を突っ込んで、あの真っ黒な瞳を私に向
けた。



……どんな格好も表情も、よく似合うこ
と。



ただ塀に寄りかかっているだけなのに、
あからさまに彼の周りだけ空気が違って
いる。



もしかしたら雅なら、女装さえも似合っ
てしまうかもしれないとさえ思った。



「行くぞ」



朝の挨拶も何もない。


雅はただ、それだけ言うと、ゆっくりと
塀から背中を離して、歩き出した。



それに無言で後ろを着いていく私。



……どうやって、断ればいいかしら。



さっきから。いや、昨夜からずっと考え
ているけれど、これっぽっちも答えが出
てこない。