それは、唐突にやって来た。



「類……千咲……」



ある休日の午後、リビングで千咲と二人
、絵を描きながら遊んでいたら、不意に
後ろから声をかけられて。



「なあに、お母さ……」



お母さん、というセリフは、途中までで
形を無くした。



そこに立っていたのは、確かに母親だっ
た。──だけど、母親じゃなかった。



母親の形をした、別の"何か"だった。



「おかーさん、なんでトントン持ってる
の?」



横で千咲が、母親に向かってそう問いか
ける。



トントン、というのは、包丁の事。



そう。──母親の手には、鋭く光る、包
丁が握られていた。