だけど、麗のその大きな瞳に、一瞬、暗
く鋭い影が突っ切ったように見えて、俺
は思わず瞬いた。
だけどその影はすぐに消えてしまったけ
ど。
「そんなの、居ないわ」
微かに笑いながらそう言った麗は、どこ
か切なげで。
麗に好きな人が居ないことに喜ぶよりも
、その時の俺は何故か、少し拒絶された
みたいで、胸がもやもやしてたんだ。
「麗ちゃーんっ!」
ふと、遠くの方から、そんな陽気な声が
聞こえてきて、麗がそちらへ視線を向け
る。
それに倣うように俺もそっちを向くと、
春希がブンブンとこっちに向かって手を
振っていた。
「こっちおいでよー!悠ばっかりと話す
なんてズルいよー!」
……くそ。わざわざ呼びやがって。


