だけど今の親父の口振りじゃ、まるで母
さんをすごく愛してたみたいじゃないか
──死ぬ、その一瞬でさえも。
でもそれじゃ可笑しい。
だって、この男は──。
「母さんを看取らず仕事に行ってたお前
が、そんなことを言うのかよ」
そうだ。
こいつは母さんを見捨てた男だぞ。
最後の一瞬さえ、母さんを見届けなかっ
た薄情な奴だ。
だけど、責めるようにそう言った俺に、
親父は力なく首を左右に振った。
「怖かったんだ。京子が居なくなるなん
て、信じたくなくて。……俺は、逃げた
んだよ」
「なんだよそれ……。母さんは絶対、あ
んたのこと待ってた!最後にあんたの顔
を見たいって思ってた!」
悔しいし、認めたくないし、なんで、っ
て思うけど。
それでも母さんは、この男の事を、愛し
てた。


