俺は……俺は、麗が──。
その時、それまで黙っていた親父が口を
開き、さっきまでの威勢はどこへ行った
のか、ものすごく弱々しい声を絞り出し
た。
「……じゃあ、そっちの居心地が良くて
、そっちに逃げてしまったら、どうする
んだ……」
俺は、親父の言ってる意味がよくわから
なかった。
「……もう、失うのは嫌なんだ……」
親父は悲痛そうな声をもらすと、少し潤
んだ瞳を俺に向けてから、すぐに気まず
そうにその目を伏せた。
そして、ポツリポツリと、語りだす。
「京子が死んでから……俺はもう、どう
したらいいのかわからなくなった。世界
が、真っ暗になったみたいだった」
京子(きょうこ)、というのは俺の母さ
んの事。


