「ふーん?抵抗しないんだ。珍しいね。 怖くないの?俺の事」 ニヤニヤしながらそう言ってきた、名前 も知らない目の前の男を、ただただ無表 情で見ていた。 抵抗しないんだ。──抵抗しても無駄だ って知ってるから。 怖くないの?──怖くなんてない。 いっそのこと、もう壊してくれれば。 気の緩みそうなこの現実を壊してくれさ えするのなら。 「……私をどうにかしたいなら、とっと とすれば?」 自分を犠牲にしたって、良かった。 ──八月上旬。 茹だるような暑さの中、私は家を出る準 備をしていた。