新撰組と妖狐ちゃん!



その瞬間、
さっきの静けさが嘘のように、
座敷は一気に賑やかになった。


「さっきの花魁、すげぇ綺麗だったよな!!」


「杏子ちゃんだっけ?
あの子に酌してもらいてぇなぁ〜」


皆、口々にさっきの花魁の事を言う。


けれど、どうやら、
日向だって事に気づいているのは、
俺だけらしい。


幹部の奴らも酒が回っているせいか、
気づいていない。


酒をあまり飲んでない総司や斎藤も
顔を赤らめているだけだ。


…これはチャンスとしか言いようがねぇよなぁ?


「んじゃ近藤さん、行ってくるぜ。」


俺はそう言って、席を立った。


「お?土方さん、まさか杏子ちゃん捕まえに行くんじゃ…!」


「えー!ずりぃぞ土方さん!!」


座敷を出ようとする俺に気づいた新八と平助がわーわー言ってきた。


あれが日向だって悟られたくないし、
面倒なので、無視して襖に手をかけた。


顔を赤らめながら、
神妙な顔をしている総司に気づかずに。


「土方さん無視!?」


「それは肯定なのか!?」


と嘆いているのも無視して、
スーッと襖を開けて外に出ると、
静かに閉めた。


賑やかな座敷と違って、
月明かりに照らされる吹き抜けの廊下は
心地よい静かさだった。


そこには、


「っ!?」


さっきの花魁が
呆然と立ち尽くしていた。


後ろ姿でも、
花魁姿でも、
日向って分かる俺は
こいつに惚れすぎなんだろうか。


「おい、そこの杏子って女、」


俺に気づいているのか、
気づいていないのか、
ただ黙ったまま突っ立っている日向。


声をかけても振り向こうとしない。
…いや、振り向かないだけか?


「お前ちょっと顔を見せてみろ。」


…早く、確信させてくれ。


いなくなったテメェが、
今此処に、俺の目の前にいるって事を。


「おい、無視すんなテメェ、」


そんなに俺らに会いたくないのかよ。


いくら声をかけても、
振り向かないし、返事もしない。


「おい、聞いてんのか、」


…頼むから。


すると、


「…すいません、ボーッとしてまして。
今、担当の者を呼んできますから。」


やっと聞けた小さな声と共に、
日向はこちらを振り向かず
一目散に逃げていった。


「…ちっ」


俺が会いたいのはテメェだってのが
わかんねぇのかあいつは。


俺は軽く溜息をつき、
日向を見つけた安堵と、
逃げる日向に湧き上がってくるイタズラ心に、一人、ニヤッと口角を上げた。


俺から逃げようなんざ、
百年早いんだよ、あの子狐め。


俺をあんだけ心配させた罪は重いぜ?












「さぁ、どうしてやろうか。」












俺は、重そうな着物で一生懸命走る日向を、軽い足取りで追いかけた。