新撰組と妖狐ちゃん!



…。


「よし、かかるか分かんないけど…
…やってみますか。」


あたしはふぅ…と息を吐き、
50m先の屯所に向けて手をかざした。


そして、静かに言葉を唱える。


「…我が名は日向。白狐の血を引く者としてここに告ぐ。…新撰組の者の身体を癒しなさい。」


…なんか呪文っぽい事を言ったけど、
これ適当だから←
長々と喋れば成功率が上がるかなとか思っただけだから←


あたしが喋り終えると、
この間みたいに緑色に光る…のは流石に此処からじゃ見えないが、まぁ、天才日向様の辞書に不可能という文字はないのだから大丈夫だろう←


「よし、今度こそ帰ろ。」


あたしはくるりと屯所に背を向けた。


が。


「…。」


幻覚かな、
すぐそこに島原が見えた気がした。


うん、だってあたしはまだ一歩も進んでないもん。


どこでも○アがある訳でもないし。
瞬間移動した訳でもないし。


あたしは、くるりと屯所の方を向いた。


「…。」


うん。屯所の門は50m先。
さっきから全く変わってない。


さっきのは早く帰りたいがために、
島原の幻覚が見えたんだ、きっと。


なら、振り返ったらそこには島原なんて存在しないよね?


せーのっ、


くるっ


「…。」


何でだあぁあぁああぁぁああ!!??


何で目の前に島原があるんだあぁあぁああぁああ!!??


あたしが一人で後ろを向いたり前を向いたりしていると、どうしたの?とまた鈴ちゃんが聞いてきた。


「り、鈴ちゃん。屯所から島原ってこんなに近いのか…?」


あたしが、夜の京の町にキラキラと輝いている島原を指して言った。
すると、


「うん、新撰組の人もよく来るよ?」


何だとおぉおぉおおぉおおお!!!


え、なに、この近さ!


あたしが、逃げてきたのって
こんなに近場だったの!?


これ意味ある!?
逃げてきた意味ある!?


「でも大丈夫!新撰組の人には会わせないようにするから!」


「…えー…」


うなだれるあたしをよそに、
鈴ちゃんが自信満々に言った。


…。


いや、待てよ?


こんだけ場所が近くて
一週間もあいつらに会わないって事は、
そもそもあいつらがあたしを探していないって事だ。


…良かった。
わざわざコソコソする必要ないじゃん。


「…。」


あたしにとって都合のいい事なのに、
あたしが望んでいた事なのに、





胸がズキっと痛んだのは何でだろう。





「…まぁ、いいや。帰ろっか。」


「…うん。」


刀も意外と近くで見つかったし。
あいつらからわざわざ逃げる必要も無くなったし。


「…はぁ…。これで一安心だな。」


あたしは、安堵のため息をついた。


「…。」


けれど、隣を歩く鈴ちゃんの目には
辛そうに写っていた事をあたしは知らない。