思った通り、郁実だった。




電話に出ると、郁実が息をきらしている。




「はぁっ……今、どこにいる?」




「もう駅だよ。このまま帰るね」




「こんな時間にひとりで出歩くなよ!!お前、俺にどんだけ心配かけたら気がすむ……」




「ストーカーはもういないから大丈夫だよ。それに、郁実が悪いんじゃない……いつもあたしを置いて、勝手にどっかに行っちゃう。

期待して待っているのは、あたしだけ。前からそうだけど、郁実は…目の前のことでいっぱいいっぱいになりすぎるんだよ」




高木さんの言う、いつでも全力っていうのはそういうこと。




それは、郁実にとって短所以外の何物でもない気がする。




「そんな風に言うなよ、だから戻って来たんだろ?俺の部屋で待っとけって言ったのに」




「だから、指示が曖昧なんだよ…あの状態で、郁実の部屋に入って待ってるの?いつ帰ってくるかもわからないのに?」




「そーだな、俺が悪かった。今からでもいーじゃん、戻って来いよ」




ドキッ。




反発されると思ったけど、そうじゃなかった。




しかも、戻って来いって……。




できれば、今日はもう高木さんに会いたくない。




仕事のことだから仕方がないにしても、何かと理由をつけて、目の前で郁実を奪われるのは…もう、嫌だよ……。













「もう、電車来るから…」




「今日会えなかったら、しばらく会えない。明日の午後は、撮影で海外に行く」




「かっ、海外!?」




また、唐突な!




郁実は、いつだってそう。




1年前の、別れる直前だってそうだった……。




「勝手だよ……郁実の都合で、あたしは動かなきゃなんないの?今日だって1日潰れたし」




「俺の彼女だろ?」




いや、そうなんだけど。




従うのが当然のように言われると、イラッとしてしまう。