「だからね、僕今日電車乗ったんだけど、超満員だったわけ。そのせいで結構周囲の人と密着したんだけど、その中に滅茶苦茶香水の匂いが強い人がいたんだよね。そのせいだよ」


 どうやら誤解は無事に解けたらしく、美由紀の身体からへなへなと力が抜けた。判りやすいな、と髪を撫ぜる。彼女はぶっきらぼうに「……疑ってごめん」と謝罪を口にする。素直でないのにきっちり謝罪するべきは謝罪する。そんなところも、僕が彼女を好きな一因だった。


「うん、いいよ、許す」

「……すっごい言い方が癪に障るんだけど?」

「でも今回悪いのは美由紀だよ」

「……そうだけどさ」

「ねえ、だからさ」


 少しだけ彼女の身体を離し、腰を折って彼女の顔を覗き込んだ。きつめの釣り上がった瞳に自分が映っている事実に無性に安心する。
 美由紀が逆らえないと知っている笑みをわざと浮かべた。


「僕を甘やかしてほしいんだけど」


 否定の言葉を紡ぐ前に彼女の唇に、そっとキスを落とした。