那智に初めての彼女が出来たのは中学二年生の時だった。

それまでも人気はあったのだけれど、わたし以外の女子とはあまり話さない彼に告白してくる勇者はいなかった。

わたしはそこそこ告白は受けていたけれど、恋愛というものがよく判らず、とりあえずはお断りを貫いていたのだけれど。



「好きです」



一緒に登校している最中のことだった。
途中の道で待ち伏せていたその子は真っ赤に顔を染めて一言そう言い放つ。

那智は一瞬きょとんとし、「僕?」と少し戸惑ったように自分を指差しつつそんな間抜けな返答をした。

待ち伏せていた彼女は恥ずかしそうにコクリと小さく頷く。



「あの…この前、廊下でプリントばら撒いちゃった時、一緒に拾ってくれたよね?それからつい相川くんを目で追うようになっちゃって…それで…」

「ああ…うん」



一瞬遠い目をした那智は、思い出したとでもいうように軽く頷いた。

わたしは目の前で恋愛模様が繰り広げられていく様子に戸惑いが隠せず、身の置き場に困り、ただただ目立たないようにそっと那智から離れた。

彼女はより一層真っ赤になり、もじもじとした様子で「それで…その…」と続ける。那智はどうしたらいいか判らないといった様子だったけれど、少し嬉しそうにはにかみ笑いをしていた。



「あ、相川くんのこと、好きになっちゃったんです!あの、もし良かったら…わ、わたしと付き合ってくれないかな!」



言い切った彼女をボンヤリと眺めながら、ああ、彼女は三組の田中さんだとようやくわたしは思い出した。基本的にあまり交友関係が広い方ではなかったので、正直彼女がどういう子なのか、そういったことは全く知らなかった。

那智はえ、あ、と少しの間どもり、その後小さく「…うん、いいよ」と頷く。
断るだろう、と無意識に思い込んでいたわたしはその答えに少なからず衝撃を受けた。

田中さんは顔を赤くしたまま「やった…!」と口元を両手で隠しながら女の子らしく喜びを表現していて。

その様子を見つつ、ならばわたしがここにいてはいけないのだろうと、やっとその結論に辿り着いたわたしは、そっとその場から逃げ出すようにして一人学校へと向かった。