…失敗した。
もう少し警戒しておくべきだったな、もう遅いけど。ポタポタと髪や服から雫が滴るのを感じながら、冷静にそんなことを考える。

部屋着として活用しているくたびれたティーシャツはぐっしょりと濡れた。
これは下着の線もくっきり出ているのではなかろうか。別にいいけど。見られるっていったってどうせ那智(なち)だし。

適当に一つにまとめていた髪の毛を束ねていたシンプルな髪ゴムに指を引っ掛けてするりと抜き取った。

濡れているせいで髪の毛は結んだ形そのままに固まっていて、それを指で梳き元に戻してやる。
思わず軽くため息をついた。


濡れて目元に張り付く鬱陶しい前髪を払う。視界にようやく傷んだ茶色がちらつかなくなった。
そしてずぶ濡れになった原因の目の前の人物を睨む。



「…随分なご挨拶ね、那智。呼ばれたから来てあげたのに」

「んー?あ、いらっしゃい美由紀」



ニコニコと、人畜無害そうに微笑む幼馴染は人の話を全く聞かずにくいっと軽く首を傾げる。
整いすぎて冷たそうな印象を受ける顔立ちなのもあり、その幼い仕草は多少アンバランスに、しかし可愛らしく映る。

…が、幼馴染のわたしにその可愛らしさは通じないし、それ以上にお茶をぶっかけられたのだからそれくらいで誤魔化されるわけはない。