いつか猛烈な寝相攻撃を食らうことになるかもしれない、と薄々と予感はしていたものの、まさか昨晩にそれがやってくるとは思いもしない。

しかもその日はやけに、足が当たったり体が当たったりと、とにかくひどかった。

遠退いたり急接近したりする陽頼に緊張していた酒童は、より不眠になった、というわけだ。


 ……なので、決して大人と青少年の境界線を踏み越えたわけではない。



「ビンタとキック?
なにそれ、もしかして童貞卒業どころか、離婚寸前?逆DV?」


 天野田はやけにはしゃいでいる。

 無論、陽頼がそんなことをするはずがない。


「馬鹿か。
あいつがするわけねえよ、そんなこと。
寝相だ。ね、ぞ、う」

「なんだ、寝相か。
というかあの子、寝相悪いんだ」


 へえ、と何度もうなづく天野田だが、なんだか不服そうである。


「じゃあ、なんで治療室なんかで睡眠とってんの?」


 態度を急変させて、天野田は素っ気なく質問した。


「今日、陽頼が当直だから」


 部屋にいても1人きりで、やることもないから、拠点に配備されている、ほとんど役立たずの治療室で仮眠をとっていたのだと、酒童は話した。


「ふうん、彼女がいない日は寂しくて仕方がないって?
リア充だねえ、君って男はさ」

「別に、そんなデレてねえじゃん」

「いつもの君は好きでも嫌いでもないけど。
鈍感な無自覚童貞野郎になったときの君は、首を刎ねて体中かっさばいてやりたくなるほど嫌いだ」


 そこまでいわなくても、と酒童は弱々しく肩をすぼめたくなる。