1


「やあやあ酒童くん、こんなところで居眠りかい?」


 嫌味ったらしく言う声が、頭の上から降ってくる。

 酒童が目を覚ますと、目と鼻の先には天野田がいた。

ベットの上で体を起こすと、酒童は大きくあくびをした。


「悪い。昨日、あんま寝てなかったから」

「眠れなかった?
へえ、眠れなかったってことは、もしかして童貞卒業しちゃった?
それなら昨日眠れなくても、おかしくないねえ」

「ふざけんなよ。
昨日はビンタとキックで眠れなかったんだって」


 酒童は、卑猥なことをぬかす天野田の脇腹を、肘で軽くごついた。

 そう、昨晩は本当に、眠れなかった。

 至近距離で陽頼が寝ていたことへの緊張感もあった。

 しかし、主な原因はそればかりではない。

ようやく眠気がやってきて、うとうととし出した頃、陽頼の故意ではない平手打ちが、上から降り立つ形で、酒童の頬に直撃したのである。

痛くはなかったものの、べちりッ、という衝撃に目を覚ましてしまった。

 実は、陽頼は寝相が少し悪い。

初めてそれを知ったのは、付き合って間も無く、陽頼が遠足気分で酒童の許へ泊まりに来た日だった。