「でね、俺は言ってやったんすよ。
そいつらが弱かっただけだって」


それで結局、退学は免れたものの、成績を大きく下げられたということだ。




「……朱尾」

「はい?」


重ぐるしく声を発した酒童に、朱尾は能天気に首をかしげた。


「お前、他に言うとこはねぇか?」

「なんすか、言うことって」

「だから。

それ以外に、俺に言ってねえことはないかって、訊いてんだよ。
お前の口から出た言葉だけが、事実なのか?
あとは、本当にねえのか?」

「ありゃしませんよ。
俺が言ったこと、ぜーんぶホントですから」


朱尾は嘘をつかない。

いいことも悪いことも、酒童の知る彼ならば、すべて暴露していた。


「……そうか」


静々とうつむいた酒童だったが、その手は決して穏やかではない。

拳を硬く握り、悔しさなのか悲しさなのか、どちらともつかない感情に、手を震わせている。


(なにがあったってんだ)


本当は、朱尾は嘘をついているのではないだろうか。

昔の朱尾をよく知っていた酒童は、簡単には信じられなかった。

落ちている小鳥を拾っては巣に戻したり、持久走でばてかけていた訓練生を介抱したり。

彼は正義感が強い、というにふさわしい漢だ。

それが、なぜこっなってしまったのだろうか。


「先輩?」


朱尾に呼び戻され、酒童は我に返る。


「ど、どうした」

「肉のこと、覚えといてくださいよ。
今日、仕事のあとに拠点で渡すんで」


朱尾は無垢な瞳になると、最後のステーキの欠片を、口に放り込んだ。