「あいつ、妹じゃない」
酒童はさすがに訂正した。
「え?妹じゃないんすか?」
「ああ」
「じゃあ、いとこかなにかっすか?
母ちゃんってことはさなそうっすけど」
朱尾はどうやら、身内しか頭に浮かばないらしい。
酒童はどう突っ込めば良いのかに困ったが、とにかく、
「彼女」
とだけ言った。
「はっ?彼女っ?」
呆気に取られて口を開く朱尾に、酒童はうなづく。
まさか彼女とは想像もしていなかったようで、彼は随分と驚嘆している。
「まじっすか⁉
いや、先輩はイケメンだから、いつかはできるんだろうなって思ってましたけど……。
はー……あの人が」
「俺のことに関しては若干間違いがあるけど。
そんなに驚くか、普通」
「いや、幼い顔立ちだったし、まだ高校生くらいかなと……」
へー、そうだったのか。
ぶつぶつと独り言をぼやいていた朱尾だったが、そこで、ふっと湧いて出たように、酒童を丸い瞳で見やった。
「あ、そうだった。なあ酒童さん」
「なんだ」
「その彼女さんから、聞いてませんか?
俺からの伝言」
言われて、酒童は陽頼の言葉を思い出す。
そういえば、確かに伝言を預かっていた。
「鹿か猪か、ケルピーか、ってやつか?」
「はい」
「どういうことだよ、あれ」
「その3つの中で、どれが食いたいか、ってことです」


