そんな馬鹿な。


 酒童は茨の頬を引っ張ってやりたくなる。

 つい数時間前に、西洋妖怪が異常発生していると聞かされたばかりだ。

そんな最中に「今日は一段と数が少ない」などと言われては、こんがらがってしまう。

いや、きっと「異常発生」の説の方が正しいのだろうが、そんなに増えているのに、なぜ最近はめっきり数を減らしてしまったのだろうか。


 数が減った、というのは、肉眼で見てわかる限りの真実だが、先ほど教えられたことと、今に聞いたことは、情報が食い違っている。


「酒童さん?」


 あまりに神妙な面持ちだった上司に、茨はそっと声をかけた。


「大丈夫ですか、会議でなんかありましたか?」


 なかったといえば、嘘になる。


「あったは、あった」

「そうですか。
俺はてっきり、また酒童さんが班長に絞め技をかけられてるのかと思って」

「……あのな、茨よ。
俺はそんなに、毎度毎度と絞め技をくらってるわけじゃねえぞ」

「ですよね」