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「酒童さん、風邪でもひいたんですか」

 低めのビルの屋上で待機していた茨は、すっかり生気の抜けてしまった顔の酒童に問いかけた。


「ひいてねえよ」

「はあ……。

いや、なんだか、すごく生き生きしてない顔だなと思って……」

「お前がくる前に、いろいろあったんだよ」


 がっくりと肩を落とし、酒童は床に腰を敷いていた。

 本当に、面倒このうえない。

 狩もしたことがないような、しかも訓練中の者を入隊させるなど。

地区長はよほど死人を出したいらしい。

聡明な方だと耳にしていたし、彼なりになにか考えがあるのだろうが、少なくとも、酒童には自殺させ行為にしか思えない。


「今日は一段と、奴らは数が少ないらしいですよ」


 茨はしみじみと、さも平和な様子で言った。


「呪法班の式占では、今日ここに現れる西洋妖怪は2体。

いつもなら一晩に7体は出てくるのに、今日はラッキーですよ」