そう肩をすくめる加持の前で、九鬼は「はっ」と短く息をついた。


「妖を信頼や知識がものをいうヒトと一緒にするな。
我ら妖は、強き者こそ筆頭に立てる。
たかだか嘘をついたくらいで、妖は蜂起などせんわ」


 九鬼は唇の端を上向きに歪める。


「貴方にも、協力を感謝しなくてはなりませんね」


 部下を殴り飛ばされ、会議を無茶苦茶にした相手にも、加持は丁寧かつ沈着な体制をとっている。

 よせよせ、と九鬼は戯けたように笑い、手を顔の前で振る。


「いくら鬼とはいえ、心がないわけではないぞ。
……子の命が惜しいのは、人の親も鬼の親も、さして変わらん」


 九鬼は懐かしげな眼差しを、我が子を抱き締めた腕に向けている。


「本当に、すまないことをしました。
特に九鬼どの、貴方には」


 加持はいまいちど、深く頭を下げる。


「われわれ羅刹は24年前、酒童の父である貴方から、親権と貴方の子を奪った。
そのうえ此度に至っては、意図的に、酒童に貴方への敵意と軽蔑を植え付けてしまいました」

「過ぎたことを何度も謝るなよ」

「たしかに、貴方が酒童を我が子とも思っていなかったとすれば話は別ですが。
……貴方はそうではなかった」

「俺への敵愾心を植え付けるというのは、わざとではあるまい。
真の目的は“レイジに確固たる意思を持って、人として生きると決断させることを促す”であろう」


 それで嫌われるのなら、安いものさ。

 九鬼は言いながら、胸のポケットからやけに長い煙管を取り出し、ゆうゆうと煙をふかす。