鬼の力を手に入れた羅刹は、力持ちだ。

 力量による個人差はあるものの、最低限、100キログラムを越す力士を軽々と持ち上げる力ならある。

 当然、酒童も力があった。

 高校時代、既に羅刹の一員として活動していた酒童にとって、同い年の少女を背負って建物の間を渡り歩くことは、朝飯前であった。


『わああ……』


 ビルとビルを縫うように跳躍する酒童に背負われ、少女ーーー陽頼は興奮に顔を赤くし、感嘆した。

 なにしろ、人間より遥かに跳躍力があり、滞空時間も長い“羅刹”の視点から見る景色だ。

生身の人間にしてみれば、空を飛んでいるような気分にもなるだろう。

 その嬉しそうな声には、酒童も得をした気分になった。

自分のしていることが、誰かに喜んでもらえている。

そしてその様子が目に見える。

 酒童にとって、それは最高に心温まるものだった。


(乗せて欲しいっていうから乗せたけど、悪いもんじゃねえな)


 酒童は思った。

 陽頼が「乗りたい」と、好奇心の滲み出た顔で言ってきたので、酒童は半ばおそるおそるに陽頼を背負い、こうして陽頼の家まで送っているのだった。

 酒童にしてみれば、訓練された筋肉質な女と比べて、生身の少女の体は柔軟で軽かった。