「……班長!」


 俺は眼前に立つ班長の名を呼んだ。


「班長!」


 もう一度強く呼ぶと、班長はやっと俺のほうを向いた。

その凍てつく、氷のような瞳で、だ。


「……その腕に抱いているのは、なんだ」


 班長は重ぐるしい口調で聞いた。




「……その顔から察するに、誰か犠牲者が出たようだな。


……鬼門よ」



 
 班長の眼は、真っ直ぐに俺を見据えていた。


 俺の顔は、もう生気を失ったように真っ青だったのだろう。


「う……」


 俺は堪えきれなくなって、眼のくぼみに水を溜める。

 そんな俺をどう思ったのか、班長は、表情のない顔で俺の肩に手を置いた。


「―――1人でも多く助けたのは、未熟者のお前にしては良い判断だ」


 班長の手は、ひどく冷たい。



「……くっ、
うわああっ……‼ううっ……」


 俺は咽ぶ。


―――未熟なままではいけない。

―――甘さも、理性も、全て捨てろ。

―――たとえ鬼に成り果てても、憎悪と殺意は捨ててはならない。



 俺は自己呵責の念を発散するように、強く叫んだ。









 鬼門 雅幸(まさゆき)。


 当時17歳。


 完全に人の心を捨てた頃には、既に時もたち、41歳となっていた。