「ひとりだけ幸せになったって、幸せなのはその時だけ」

「―――」

「真実を知ろうと知るまいと、結局、最後に泣くのは私自身のはず……」


 青木は確信を持って言った。

 非体験の事柄や学問についてならまだしも、青木は自分が体験したことすら、他人には自信をもって話すことはできない。

 ひょっとすると、自分は完璧にできているつもりでも、本当はできていないのではないか?
 
 そんな不安がよぎってしまうが、今回に至っては、どうしてか腹のそこから自信満々に断言できた。


「朱尾くんひとりに、また全部押し付けるわけにはいかない。
そんなことをすれば、また悔いが残る。
それでもって、あなたはまた重いものを背負って行くことになる」


 それは、もういい。


 青木は言い募ると、一気に肩を落とす。

 そんな青木に、朱尾はぽかんと口を開けたまま固まっていた。


「おい……」


 朱尾はそっと堅そうな手を伸ばし、獣を彷彿とさせる男とは思えぬほど慎重に、指先で青木の頬に触れた。

 びくり、と跳ね上がる青木などさておいて、朱尾は布団でその顔を拭う。


「なんかお前、よく泣くなあ……」


 当然、青木が秘めていることなど知りもしない朱尾は、痛いの飛んでけ、とばかりに青木の頭をくしゃくしゃと撫でる。








 青木は、今回ばかりは周りを見ることを忘れていた。

 治療室の窓に坊主頭の巨漢の影が映っていることにさえ、気づけなかった。