「みなまで言わなくたって、いいだろ」


 朱尾は青木から眼をそらした。

 照れ臭いのか、恥ずかしいのか。

 都合が良すぎるだろうが、青木には、彼が言いたくないことが、自分の予想している事実と合致するような気がした。

 青木は、ふつふつと身の内から沸き上がるものに身をよじるように、髪で顔を隠して恥じらった。


「う、ん……」


 自分でも考えられないほどに力を振り絞り、やっとのことで声が出る。


 彼が冷たかったのは、自分を嫌いになったからではなかった。

 彼はずっと……。


 青木は自分を愚かだと思う一方で、いったん消えかかっていたものが再び激しく燃え立ったことに恥ずかしさを覚えた。


「それと同じさ。
俺の態度がすこぶる悪い理由の一つは。
いや、もちろん諦めてたってのも、あるけど。

素行不良のお友達、なんて、印象が悪いだろ?」


 朱尾は苦笑する。

 彼が青木に異様なまでに冷淡だったのを考えると、彼の言うことは辻褄が合う。


「お前にとって俺の行動がそんなに嫌だったなら、俺は芝居をやめよう。
ただしお前、これからもあんまり俺に近づかねえほうがいいぜ?」

「周囲の眼が、私に悪いふうに向けられるかもしれないから?」

「まあ、そんなとこだ」


 朱尾はどこまでも偽悪的な男のようだ。

 確かに青木は何度もそれに救われた。

 しかし、



「……そんな話は、乗らない」



 青木は一刀両断し、それを断った。