「っ……あのっ」
青木はそこで、班の精鋭の中でも温和な女性班員に声を掛ける。
「どうしたの?」
平和そうな彼女の表情に対し、青木は緊張のあまり汗をかいていた。
「さっきの式占……ほんとになにも見えませんでしたか?」
「見えなかったけど?」
「例えば人影とか、その、獣の頭とか……」
「それも見えなかったよ?」
聞いて、青木はいよいよ、これはおかしいぞと感じた。
いくら腕の立たない呪法班員とはいえ、“他と違うものを見た”というのはない。
見えるか見えないか、その二択しかない。
だから、彼らに見えなかったものが青木に見えていると言うことは、ありえないのだ。
(どういうこと?)
息を飲む青木をさておいて、じゃあねと笑顔で手をふり、精鋭たちは蔵を去ってゆく。
某然と立ち竦む青木であったが、そこで、いつもはまったく言葉を交わさない隣の班員が、
「君も、か?」
と、涼やかな声を掛けた。
はっとして、青木はそちらを振り返る。
艶やかな黒髪を適度に伸ばした、冷ややかな眼の男だった。
年は20代後半と見える。
酒童班の隣の班である、天野田班を担当する呪法班員の精鋭・信太晴明(しのだ はるあき)である。
「し、信太さん……」
青木はいつも以上に萎縮して、腰を屈める。
よくここに出入りする天野田も呪法にはめっぽう詳しいが、ここ呪法班におけるトップの術学者は、この晴明である。
治癒においても、祓においても、予知においても、晴明は呪法では誰にも引けを取らぬ最高の実力者だ。
だからこそ、下っ端で“見習いよりはマシ”な程度の青木は余計におそれかしこまる。


