ちなみに、酒童がいちばん苦手な絞め技は、班長の得意技である『十字がため』だ。


あれを食らってしまっては、ひとたまりもない。


あの目眩がするような息苦しさは、想像するだけでも悪寒が走るのだ。




 洗濯物を全て畳み終わると、酒童は浴室まで行って、鏡の前に立つ。


 肩より下まで伸びた長髪は、光を弾いて茶色に光る。

だらりと垂れた前髪から、鋭敏な目が覗いている。

ときどき顔が痒くなるが、さほど鬱陶しくはない。

もちろん邪魔なので戦闘時はうしろでひとつに括っている。


 酒童は着ていたTシャツを大雑把に脱いだ。

 鏡に映る、鍛錬された上半身を見つめて、長いため息をつく。

筋肉が大半を占める、戦闘に特化した肉体だが、跳躍の重石にならないために、無駄な筋肉はついていない。

痩身で筋肉質な身体には、あちらこちらに痛々しい傷が残っている。



(増えたな)



 酒童は切実に思った。

 なにが増えたのか。

 その身に刻まれた、無数の傷痕のである。


 戦うことが仕事であり、ほぼ戦に出ているのと変わりのない羅刹は、常に傷がつきものだ。