そこで酒童は、爪が長く伸びた手が、陽頼の髪の毛に触れていることに気づく。
酒童は息を飲んだ。
(いつのまに……)
酒童は戦慄する。
ああやって気を抜いた瞬間にも、鬼の血は姑息にも体を乗っ取ろうとするのか。
(危ねえ)
本当に効くのかな、と玉鋼の柊を見つめるが、首から垂れるそれは、当然ながらうんともすんともいわない。
酒童は手をひっこめるや、上目遣いに陽頼をうかがう。
陽頼は髪に違和感を感じたのか、こちらを振り返る。
「なあに?なにかついてた?」
「いや……」
酒童が首を横に振ると、陽頼は何が目に留まったのか定かではないが、一点に酒童の顔を凝視した。
「どうした?」
「おかっぱになっちゃってる」
意味不明な事を口走ると、陽頼は酒童の右横の髪に触れた。
「おかっぱ?」
「右の髪がすっぱり切れてるよ?
武家のお姫様みたいになってる」
ほら、ここ。
陽頼は携帯電話を取り出し、黒い画面の反射で酒童の顔を映してみせる。
たしかに、長くてうっとうしそうな前髪の中、右横の髪の毛だけが、目尻辺りまで平行に切られている。
人狼討伐のおりに切れたようだ。
陽頼は立ち上がると、「んーっ」と背を伸ばした。
「切っちゃおうよ。
ここだけ短いのはアンバランスだし。
私が切ってあげる」
「できんの?」
「これでも髪の毛いじりは、高校生の頃に友達とよくやったから、できる方なの」
女性というのは本当に多才なようだ。
俺も女に生まれてれば、手先が器用になったかもな。
女になった自分を思い浮かべてみる。
女の鬼とは、また一段と怖そうだ。


