この学校の屋上に、立ち入り禁止令というものはない。

ないはずだし、ここは日当たりがいいはずなのだが、なぜか誰も寄ってこない。

 その原因を、酒童は知っていた。

 酒童が2年生の頃まで、この高校には札付きの不良が屯していた。

そのため、この屋上はすっかり彼らの縄張りだった。

 だからだろう。

生徒が屋上で弁当を食べるという習慣が定着しておらず、いまや忘れられた昼休みスポットと化している。

 酒童は屋上入り口の上に腰をかけて、もそもそと小ぶりな握り飯を口にしていた。


(みんなこれば良いのに)


 酒童は思ったのだった。

 天野田を誘おうとして見たものの、酒童の苦手な部類である派手な女子生徒たちが群がっていて、なかなか天野田を呼び出せず、仕方なく1人でいる。

なにしろ、天野田以外、この学校に羅刹の隊員はいないし、彼以外に話せる相手など、他の羅刹くらいしかいない。

 酒童は高校3年生になった今でも、ひとりきりだった。

 が。


「あれっ?」


 がしゃんと鉄製のドアが開けられ、女子生徒が1人、屋上に飛び込んできた。