ぎょっ、とした。


 殺せ。


 自分にそう命令してくるのは、低く、唸るような男の声だった。


 酒童は己の耳を疑う。

 
(誰だ?)


 声の主を目で探した。

 探したが、視界がみるみるうちに、気色の悪い深緑に染まってゆく。



―――殺せ。


―――殺せ。



 その一言が、頭をかち割るような頭痛と共に鳴る。







―――どうした、天下無双の鬼の子よ。







 その声が、訳の分からないことを口走った。



(何のことだ)



 酒童には、この状況が呑み込めない。


一刻も早く立ち上がらなくてはいけないのに。


酒童は鳴りやまない謎の声に、ただただ悶えていた。


(やめろ!)


 酒童が唇を噛み締めて堪える。


 が。





―――なにを躊躇っている?




 叱責にも似た質問が、遠巻きに聞こえてきた。