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 人狼を前に散る、仲間たち。

 朦朧とした意識の中で、ただひとつはっきりと映ったのは、人狼の口内を彩る真紅だった。


(みんな……)


 体中を激痛が走っているが、酒童は足掻いた。


「そっちに行ったぞ!」


 呪法班員の声がする。


「くそっ」


 隣にいた榊が抜刀した。

 人狼が、こちらに向かって凄まじい勢いで突進してくる。

 逃がすまいと、それを朱尾が追う。


(やめろ……)


 酒童は歯を食いしばり、手を失った右腕を震わせ、伸ばした。


(やめてくれ……)


 懇願する。

 勇猛果敢に立ち向かっていった榊の顔が頭に浮かぶ。

堂々と人狼に立ちふさがろうとした彼の貌は、なにかしら負の感情で青ざめていた。


―――みな、心底では、人狼が怖くてたまらないのだ。


 しかし、戦わなくては、どのみち喰われてしまうのが落ちだ。

だから、戦うのだろう。

自分が足を引っ張ってしまったせいで、ここにいる皆が、生きるか死ぬかの瀬戸際という瀬戸際に立たされているのだ。

 酒童の脳裏をよぎったのは、周囲にこだます阿鼻叫喚と、ちらばった人体の一部と、血塗れの仲間たちの姿だった。