「なんだ」

「嶺子くん、また怪我をほったらかして寝てたでしょ」


 ぎくり、と。

図星をつかれた酒童は、ばつが悪そうに視線を泳がせる。


「……いいんだよ。
羅刹なんだから、ほっとけば傷も数時間で塞がるだろ」


 羅刹は西洋妖怪に対抗するためか、自然治癒力が尋常でなく高い。

現にあの切り傷も、酒童がシャワーを浴びる頃には、既に血は止まっていた。

 それでも陽頼は、むむむ、としかめた眉毛を緩めない。


「傷は放っておくと膿むよ?」

「今まで膿んだことねえし」


 そう、どれだけ深い傷であっても、化膿する間もなく完治した。

 それでもやはり、陽頼は腑に落ちない様子でいた。


「お母さんも昔から言ってたよ?
黄色い汁が出てくるとか、肉の上にどろどろの粘液が張り付くんだって」


 酒童と同い年とは思えない可憐な童顔をしていながら、陽頼はえげつない話をする。


「ああ、わかった。悪かった」


 とうとう酒童が折れて、肩を竦めた。

どう考えても、この人には勝てる自信がない。

しかも可愛い顔をしてグロテスクな事を言われるのも気が進まなかった。


 酒童は膝を立てると、陽頼の耳朶にくちづけた。


「これで帳消し、でいいか?」


 問いかけると、心外にも、陽頼が精一杯に腕を伸ばして、酒童の額を軽く打った。

その細い指の腹で、だ。


「私、耳よわいんだから」


 困ったようとも、強がっているともつかない目つきで、陽頼は福耳を指で挟んだ。