キスというのは、やはり慣れない。


 抱きしめる事になら、そろそろ力加減もできるようになった。 (というのも、当初は男を扱うような強さで腕に収めてしまい、予想以上に驚愕されてから、酒童は「女性の扱い方」について試行錯誤したのだ)

 しかし唇で人肌に触れるという行為は、どうしてか、何度しても気持ちが高ぶるのだ。


 唇を離すと、目の前に、まだ幼い儚げな童顔があった。


「キツかったか?」

「ううん」


 顔全体を紅潮させていたが、陽頼は首を左右に振る。


「確かに息しづらいけど、呼吸困難になるほどじゃないしねー。

息ができなくなったら、結構キツイけど」


 キスで呼吸困難になどなっては、たまったものではないし、そんな事例など、無論ひとつもない。


 そういう意味で「キツかったか?」と訊いたのではないのに、予想外の言葉を笑顔で返されてしまった。

なんとも陽気な彼女であったが、頬が熱を持っているところを窺うと、先ほどのキスが平気だったというわけではなさそうだ。


(こういうのは、天然、っていうんだっけ)


 密かに思いつつ、酒童は陽頼を抱きしめていた腕を解いた。


「悪い、時間とらせた」

「別に、まだ15分もたってないし、変わりないよ」


 陽頼の言うとおり、この短時間が原因で仕事に遅刻するということはない。

なぜなら、陽頼の職場は、ここからさほど遠くない。

8時前に出ていれば充分に間に合う。


「あ、そういえば」


 陽頼はなにか思い出したように身体を起こして、乱れた髪を直しもせず、ぷっくりと頬を膨らました。